三田洋幸の考えごと
三田洋幸の考えごと
小売業にとって販売機会損失は、撲滅させたい主要なロスの一つです。販売機会損失と言っても、店舗で商品を取り扱っていないために発生する機会損失については、商品改廃で論じることにして、ここでは、店舗で取り扱っている商品の在庫不足によって生じる機会損失について考察したいと思います。
販売機会損失への対応について、小売業のマネジメント・レベルは高いとは言えない状況です。なぜなら、販売機会損失を測定し、マネジメント指標として活用している小売業はほとんどないからです。
以下はセブン&アイHLDGSの鈴木会長のコメントを引用したものです。
「小売業の大きなテーマの一つに「機会損失」と「廃棄ロス」があります。「機会損失」というのは、発注量が少なすぎて品切れを起こしたため、その商品があれば売れたのに、売ることができずに失った利益です。また「廃棄ロス」というのは、逆に過剰に仕入れてしまった結果生じた売れ残りのロスです。この2つの損失を、最少にするにはどうしたらいいかは、たいへん難しい問題です。
私どもでも、やはり多くのお店が機会損失を起こしています。実は、発注量を少なくすることは、機会損失だけでなく、廃棄ロスを増やすことにもつながっています。なぜなら、店頭に陳列している量が多いほど、お客様の目に留まりやすく、注目度が高まって売れるようになるのですが、少ないとお客様に見過ごされ、本来売れたはずのものも売れなく なってしまうからです。ですから、発注量を抑えると、二重にロスを増やします。私は、廃棄ロスを恐れて発注量を少なくすることは「縮小均衡」につながり、お店の成長にとってマイナスになると言い続けてきました。…」(セブン&アイHLDGSのホームページより抜粋)
このような問題意識を踏まえた上で、機会損失の測定方法を考えてみたいと思います。
次の様な質問を考えてみましょう。
「発注担当が発注し忘れて、商品が欠品してしまったとします。このとき、機会損失はいくら発生したのでしょうか。」
朝から在庫が全くない状態ならば、その日の平均販売数の分だけ、機会損失が発生したと考えてよいでしょう。もちろん、商品の売れ方にはばらつきがありますから、よく売れる日であったならば、機会損失はもっと大きかったでしょうし、あまり売れない日であったならば、機会損失はもっと少なかったかもしれません。ただし、欠品しているので、その日実際にいくつ売れたかは誰にも分かりません。そこで、平均販売数を用いて平均的な値を算出するわけです。例えば、1日当たり平均20個売れる商品であれば、20個×粗利単価の機会損失が発生したという計算になります。
とまあ、ここまではよくある話ですが、これでは余りにも乱暴な議論なので、もう一歩踏み込んで、厳密に考えてみましょう。
それでは質問を変えます。その日の朝には、20個の在庫があったならば、機会損失はいくらでしょう。上記と同じように考えると、(平均販売数20個−在庫数20個)×粗利単価=0となり、機会損失は発生しなかったと算出されます。この計算は正しいでしょうか。機会損失が0ならば、この商品の在庫は、毎日20個調達すればよいという話になります。しかし、20個しか在庫を持たないとすると、二日に1度は必ずと言ってよいほど欠品が発生するでしょう。なぜなら、1日の販売数はばらついているため、毎日50%の確率で20個より多く
さらに、このような調達を続けたとすると、販売実績はどのように推移するでしょうか。販売実績は20個を上限とする販売実績が続くことになります。そうすると、平均販売数は、徐々に20個よりも小さな値になり、いわゆる縮小スパイラルに陥ってしまうことになります。
反対の場合も考えなくてはなりません。弁当、和菓子といった販売期限が1日しかない商品の場合はどうでしょう。このような商品の場合は、欠品を恐れて発注しすぎると、廃棄ロスが大量に発生する危険があります。したがって、当日中に売り切れて欠品したとしても一概に悪いとは言い切れません。つまり、当日欠品したからと言って、必ずしもロスが発生したとは言えないわけです。しかし、あまりにも絞り込みすぎると、売場が貧相になって売れなくなってしまいます。
売れるからです。
「機会損失はあくまでも概算値だから、発注は別の考えで行うんです…。」
おかしな考えで す。確かに、需要予測値から発注数をもとめるには、基準在庫計算というステップが入るので、需要予測値をそのまま使っても最適な発注ができるわけではありません。しかし、発注を改善するために機会損失を測定するのですがら、発注の仕方に反映できる整合性のある(注意喚起ができる)指標でなければ意味がありません。
それではどのように考えたらよいのでしょう。そもそも、いくつ在庫を持つことが適正なのか、いわゆる、最適基準在庫数を知る必要があります。最適基準在庫数とは、次の様に定義することができます。
「商品の在庫数が多すぎる場合は、在庫維持費のため資本コストが増加します。陳腐化による見切り損失や廃棄ロスも発生します。さらに、限られたスペースに、より有利な商品を置くことができなくなることで、他品の販売機会損失につながります。
反対に、在庫数が少なすぎる場合は、売場にボリューム感がなくなり、需要減少につながります。在庫が足りなくて品切れすれば、売り損ないによる販売機会損失にもつながります。
こうしたロスを最小にする在庫数を最適基準在庫数と言います。」
さて、機会損失の測定に話をもどしましょう。在庫は最適基準在庫の数量だけ保有するわけですから、最適基準在庫数よりも商品を多く売ることはできません。すなわち、最適基準在庫を超える需要は、いわば計画された売り損ないということができます。そのような需要が発生する確率は非常に低けれど、仮に発生したとしても、全体利益を最大化するために想定されているロスと考えることができます。
こうして、欠品時の機会損失は次のように測定することができるようになります。最適基準在庫を保有したときに得られたはずの期待利益と当日の在庫量のもとで得られた利益との差を算出すればよいのです。
①最適基準在庫数を保有したときの販売期待数×粗利単価−最適基準在庫数を保有したときの売れ残り期待数×売れ残り損失単価
②当日在庫数のときの販売期待数×粗利単価−当日在庫数のときの売れ残り期待数×売れ残り損失単価
機会損失=①−②
ところが、上式を計算するのは、簡単ではありません。
1日当たり平均販売数と言っても、平日と週末さらに特売のときでは売れ方は異なります。販売期待値を計算するには、需要の標準偏差も知る必要があります。つまり、需要分布を精度高く求められなくてはならないわけです。さらに、最適基準在庫や売れ残り損失単価の算出も商品特性に応じて異なるという性質を持ちます。詳しく知りたい方は、拙著『カテゴリー・プロフィット・マネジメント』を参照ください。
販売機会損失の測定(1)
11/09/07